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心臓は一日10万回、基本的には「規則的な」拍動を続けています。心臓は血液を送り出すポンプですが、そのリズムには電気の刺激が関わっています。心臓のてっぺんで発生した電気(命令)が、心臓の上半分の「心房」を通って、中間にある「房室結節」に集まり、そこから心臓の下半分にあたる「心室」に3本の電線に分散して流れることで規則正しい収縮が起こります。この一連の電気の流れに異常が起こった結果が「不整脈」です。 |
不整脈には直接命に関わらない良性の不整脈と、その場で命に関わる可能性のある悪性の不整脈に分けられます。規則正しいはずの脈のリズムが崩れますから、「ドキドキ」「脈が飛ぶ感じ」「気が遠くなる感じ」などの訴えが聞かれます。良性の不整脈の代表が「期外収縮」です。本来の命令系統以外から爆発的に電気が出る為、規則正しい脈の間に突然の邪魔者として心臓の収縮を起こします。頻度も多く基本的には良性ですが、心房からの期外収縮が多いと「心房細動」への移行が心配されます。心室からの期外収縮が多い(全心拍数の5-10%以上)あるいは、心室性期外収縮の連発があると、危険な「心室頻拍」や「心室細動」が発生する危険性が高いと言われています。 高齢者に見られる良性不整脈の代表が「心房細動」です。これは直接的に命を脅かす不整脈ではないですが、脳梗塞の大きな原因です。心房のあらゆる場所から異常信号が出るため、心房は規則正しい収縮を失い、「震えた」状態になります。心房に流れた1分間に600回とも言われる電気信号のうち80-90回程度が不規則に心室に伝わる為、心室の収縮(脈)も乱れます。患者さん自身が動悸を感じたり、我々が脈を測る際に気がつきます。震える心房の中で血液の流れが滞るため、「血栓」と呼ばれる血の塊ができやすくなります。血栓が、左心房から左心室に移動し、血流に乗って全身に巡ると脳の血管に詰まったり(脳塞栓)、冠動脈に詰まったり(血栓による心筋梗塞)、足や手の血管に詰まる(末梢塞栓)といった合併症を引き起こします。この塞栓症の予防のため、血栓の形成を予防する抗凝固療法が行われます。かつてはワルファリン(ワーファリン)しかなかったため、納豆が食べられない、緑黄色野菜が食べられない(ワルファリンの効果を減弱させます)、定期的な血液検査で効果確認と薬剤量の調整を要する、など患者さんの負担が大きな治療でしたが、最近ではDOACと呼ばれる新規抗凝固薬が登場しました。食事の制限もなく、細かな薬剤量調整も不要になり、利便性が向上しています。 悪性の不整脈の代表が、心室頻拍や心室細動です。心室が震えた状態になるため、血圧が保てなくなり命の危険を伴います。このため電気ショックによる治療を要します。体内に植えこむタイプの電気ショック搭載ペースメーカーも使用できるようになりました。最近では、多くの不整脈がアブレーションというカテーテルを使った焼灼術(不整脈の原因になる異常な電気の流れを焼き切る)で治療可能になってきています。ホルター心電図検査(24時間心電図を記録する検査機器)により、危険な不整脈の存在を確認する事で、正しい治療につなげることができます。 |