「心不全」が大きな問題になっています。心臓は1日に10万回拍動するので、1年間で3,650万回、10年間で3億6500万回、70年間で25億5500万回、一回も止まらず動き続けることになります。高齢化に伴い、長く使い続けた心臓にガタがくるのは当然かもしれません。ヒトが生きていくために、心臓は汚れた血液を受け取り、肺に送り込み、肺で綺麗になった血液を再度受け取り全身に送り届ける「循環」を繰り返す必要があります。 | |
心臓が弱ると、この循環が滞ってしまい「心不全」になります。心不全の原因は様々ですが、「狭心症や心筋梗塞」は心臓のポンプ機能が低下する大きな原因です。他にも心臓の内部構造の弁の不具合で起こる「心臓弁膜症」、規則正しいポンプ機能が失われる「不整脈」、心臓の筋肉に異常が起こる「心筋症」、高血圧の影響などで心臓が硬くなり「縮むのは上手だが、広がる力が落ちてしまう」「高血圧性心臓病・拡張不全心不全」も注目されています。 心臓の血液を押し出す力が低下すれば、血液を受け取る仕事にも不具合が起きます。肺で綺麗になった血液は心臓に戻りにくくなり、肺がむくむので「息苦しさ」が出ますし、むくんだ肺に血液を送りにくくなりますから、全身の汚れた血液も心臓に戻りにくくなり「顔や足のむくみ」が出るのも心不全の症状です。 急に悪化する場合を「急性心不全」、全体のバランスがとれ、状態が安定している場合を「慢性心不全」と言います。風邪や過労、ストレス、のみ薬の不足などが引き金になり慢性心不全の患者さんに急性心不全が起こります。急性心不全による入院の繰り返しが、徐々に命を短めることもわかっており、急性の悪化を防ぐ事が重要です。 心不全は原因ではなく、様々な心臓病の結果ですから、元の原因の治療が基本です。高血圧は心臓の負担になるので、血圧コントロールは極めて重要です。狭心症や心筋梗塞が原因であれば、血液不足の原因になっている冠動脈をカテーテルやバイパス手術で治療することで心臓機能が回復する場合があります。弁膜症では傷んだ弁を人工弁と取り替える手術が必要です。心筋症の場合、重症例では「心臓移植」や、「植え込み型の人工心臓や補助装置を使って心臓移植を待つ」という方法も取られます。 心不全に効果的な飲み薬が明らかになってきました。心臓の仕事を減らす「利尿剤」、心臓の負担を軽くするタイプの血圧薬「アンギオテンシン変換酵素阻害薬」、心臓に負担を与える神経やホルモンの作用を抑える「ベータ遮断薬」などです。最近では無駄な心拍数の増加を抑える「イバブラジン」、心臓保護作用をもつホルモンを増強させる「サクビトリル」などの新薬が登場しました。糖尿病薬剤のうち、尿に糖と水分を排出するSGLT2阻害薬が心不全に有効であることがわかり、内服治療の選択肢が増えています。急性の悪化を避けるために、お薬の飲み忘れがないように気をつけましょう。 |